あれは確か、ダナンに来るのが3回目か4回目だったと思います。
ミーケビーチはもう見た。バインミーもミークアンもカオラウも食べた。ドラゴン橋の炎も見た。ホイアンは2回行った。マーブルマウンテンも、レディブッダも、ハン市場もコン市場も行った。
「初めてのダナン」の興奮が体から抜けると、人は少し変わります。
観光地に向かう足が、なぜか重くなる。
そしてその日、ふらっと入ったカフェから、4時間出られなくなりました。
特に何かをしたわけでも、誰かと話したわけでもありません。
コーヒーを飲んで、行き交うバイクを眺めて、また飲んで。
気づいたら夕方になっていました。
あれから何年か経ったいま思うのは、あの4時間がダナン旅行のなかでいちばん記憶に残っているということです。
絶景でもなく、インスタ映えでもなく、ただのカフェの午後が。
なんでだろう、と少し考えました。
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ダナンのカフェは、「長居」が前提でできている
ダナンのカフェは、構造からして長い滞在を歓迎しています。
天井が高い。空間が広い。
そして椅子が妙にしっかりしている。
「長時間座る側」の思想で作られている感じがするんですよね。
さらに、スタッフが驚くほど何も言ってきません。
日本のカフェで2時間座っていると、心の中で「そろそろ…」という声がします。
実際には誰も何も言っていないのに、自分の中の良心だけが勝手に騒ぎ始める。
ダナンには、それがない。
誰も何も言わないし、誰も何も思っていない。
それどころか、スタッフ自身がカウンターの奥でおしゃべりしていたり、スマホを見ていたりする。
客も店員も、全員が「そこにいることを当たり前にしている」空気があります。
その空気が、こちらの「急がないと」という気持ちを、静かに、じわじわ解除していく。
気づくと、自分もその空気の一部になっています。
コーヒー1杯が、日本円で200円を切ることがある
ダナンのカフェのコーヒー代の相場は30,000〜60,000VND程度。
日本円でおよそ170〜360円前後です。
4時間いて、カフェ・スア・ダーを2杯、カフェ・チュンを1杯飲んで、合計たぶん700円いかないくらい。
コスパの話をしたいわけではないですが、「まあ、もうちょっといてもいいか」と思えてしまう金額ではあります。
ちなみに、ダナンでよく見かけるコーヒーはこんな感じ。
カフェ・スア・ダー(Cà phê sữa đá)
コンデンスミルク入りのアイスコーヒー。甘くて濃い。午後の最初の1杯向き。
カフェ・ダー(Cà phê đá)
ブラックのアイスコーヒー。苦みが強め。2杯目以降に切り替える人が多い。
カフェ・チュン(Cà phê trứng)
卵黄とコンデンスミルクのクリームをのせたコーヒー。飲み物というより、もはやデザート。
これが4時間の、ほぼ全コンテンツです。
4時間いると、街が「背景」じゃなくなる
これが今回いちばん伝えたいことです。
1時間程度のカフェ休憩では、まだ街は「背景」のままです。
でも4時間いると、少しずつ生活が見え始めます。
まず、細身のお兄さんが来ます。
たいていサッカーシャツみたいな服を着ていて、バイクの鍵をテーブルに置き、アイスコーヒーを一口飲んだあと、完全に動かなくなります。
スマホを見ているのか、人生を見つめているのかはわかりません。
でも、急いでいる気配はゼロです。
たまに視線だけ外に流して、また止まる。
その姿があまりにも自然なので、「人間って本来これくらいの速度だったのでは?」という気持ちになってきます。
続いて、昼休憩っぽいローカルの男女グループが来ます。
制服なのか私服なのか微妙にわからない服装で、ヘルメットをテーブルに雑に置き、座った瞬間から会話が始まる。
ベトナム語なので内容はわかりません。
でも、なぜかずっと楽しそうです。
一人が話して、全員が笑い、誰かがスマホを見せ、また全員が笑う。
たぶん大した話はしていません。
でも、その「大したことなさそうな時間」が、ものすごく豊かに見える。
こちらは一人で静かにコーヒーを飲んでいるだけなのに、なぜか少し気分がよくなります。
そして、街の側も少しずつ変わっていきます。
14時ごろ、ダナンの街全体がわずかに静かになります。
バイクの流れが少し減り、向かいのお店の人が椅子を引いてぼんやり座り始める。
街の体温が、一段下がるような時間帯です。
15時を過ぎると、また動き出します。
子どもが路地を走り、バイクが増え、向かいのおばちゃんが店の準備を始める。
さっきまで椅子でぼんやりしていたお兄さんが、何事もなかったようにまた走り出していく。
観光地をまわっているだけでは、この「街の呼吸」はなかなか見えてきません。
でも、同じ窓の前に4時間座っていると、街が生き物みたいに見えてきます。
そしてなぜか、「ここに来てよかった」という気持ちが静かに大きくなります。
「溶けるカフェ」の見つけ方:ローカルのおじさん理論
ダナンのカフェには2種類あります。
「映えるカフェ」と、「溶けるカフェ」です。
映えるカフェは、海が見えるか、植物だらけか、照明が絶妙にいい感じです。
写真は確かに撮れます。
ただ少し混んでいて、隣の人がいい感じに三脚を広げていたりして、長居に向く雰囲気ではないことも多い。
一方、溶けるカフェは内装が地味です。
でもコーヒーが濃くて、椅子が安定していて、誰も急かしてこない。
4時間いるなら、断然こちらです。
見分け方のコツを、一つだけ教えます。
「ローカルのおじさんが、暇そうにしているかどうか」です。
ローカルのおじさんというのは、カフェ選びにおいて非常に高精度なセンサーです。
居心地、値段、コーヒーの濃さで店を選んでいて、おしゃれな内装や観光客向けの飾りにはほとんど惑わされない。
その純粋さは、少し尊敬に値します。
おじさんが長居している店は、コーヒーがおいしくて、誰も急かしてこなくて、時間が伸びやすい。
ダナンのおじさんは、無言のカフェ評論家です。
口コミサイトにもGoogleマップにも現れません。
でも、たぶん彼らの判定がいちばん正確です。
【エリア別】「溶けやすい」カフェ空気感マップ
ダナンでこういう時間を過ごすなら、エリアの雰囲気もかなり大事です。
アン・トゥオン(An Thượng)エリア
ミーケビーチ裏手の路地エリア。
ローカルと旅行者が自然に混ざっていて、「なんとなく入ったカフェで気づいたら2時間」が発生しやすい地域です。
おじさん率も高め。
昼過ぎにふらっと歩くと、だいたい誰かしら溶けています。
ハン川沿い周辺
川を眺めながら座れる開放的なカフェが多いエリア。
夕方以降は風が通ってかなり気持ちいい。
昼間は日差しが強いので、屋内席を選ぶのがおすすめです。
夕方から入って、そのまま夜景まで見る流れもかなり良い。
ミーケビーチから1〜2本入った路地
大通りの喧騒から少し外れるだけで、急にローカル感が強くなります。
このあたりのカフェは、内装に全力を出していないかわりに、コーヒーと椅子に妙な信頼感があります。
そして、おじさんもいます。
かなりいます。
つまり、期待できます。
その日、わたしは観光地に一か所も行きませんでした
カフェを出たのは16時過ぎ。
ホテルに戻り、シャワーを浴びて、近くで夕飯を食べて、その日は終わりました。
観光地:0か所。
映えた場所:0か所。
歩数:たぶん1,000歩くらい。
スマートウォッチが「今日は活動が少なめです」と通知してきました。
かなり失礼です。
こちらは4時間かけて、ダナンの午後を観測していたというのに。
でも、それで正解だったと思っています。
あれから何年か経ったいまも、あの日の窓の外をふと思い出します。
1時間以上動かなかった、あのお兄さん。
ずっと笑っていた昼休憩のグループ。
14時の静けさと、15時の賑わい。
コンデンスミルクの甘さと、少しぬるい午後の風。
何もしていないのに、たくさんのものを見ていました。
ダナン旅行に慣れてきたころ。
あるいは、旅の途中で一日だけ予定を空けたくなったとき。
ローカルのおじさんを探して、カフェに入って、コーヒーを頼んでみてください。
気づいたら4時間くらい経っているかもしれません。
予定は少し狂います。
でも、ダナンではたぶん、そういう日のほうが記憶に残ります。



